走り出せ。



地面を蹴り
岩を砕いて
壁を破いて

己を壊す覚悟で。





野望を果たすまで。


母さんの仇、必ずとってみせる。







第壱章 始動


――・・・・・・











ある小さな墓地の前に、少女・・・舞姫は居た。

彼女の視線の先にある墓石には"黒輝家"と乱暴に刻まれている。



「ごめんね、母さん・・・出て行くまでにちゃんとした墓石作ってやれなくて」



舞姫は手を合わせて、呟く。
彼女の唯一の家族だった母は3年前何者かに殺害された。


警察が捜査しているらしいが未だ表立った情報は耳にしていない。

だが、舞姫には一つの手がかりが合った。



母が殺される前、近所で聞いた噂。昔解散したはずの裏組織がまた動き出したという話だった。
だがその組織は昔に一度解散していて、解散をした時に一番上に居た人間は死んだと聞いていた。
多分、また新しい人間が上に来たのだろう。



母は優しい人だった。
いつも笑っていて笑みを絶やすことは無かった。

舞姫は出かけた涙をぐっと堪える。



―もう泣かないと決めたんだから。



手を握り締め、舞姫は立ち上がった。


きっと今この場に母が居たのなら、彼女を止めただろう。
そんなことしなくてもいいと。

だが母はいない。いないなら居ないで耐えられないのは舞姫の方だった。



「母さん、ごめんね。行って来ます」




舞姫は墓石にそっと触れると、歩き出した。



「舞ー!」

「舞姉ー!」



墓地の入り口に2人の少年が姿を現した。
大きく手を振っている。

そんな彼らを見つけた舞姫は駆け出した。




―――――――・・・



「舞・・・本当にいいのか?」



舞姫の隣を歩く少年、龍弥が問いかける。



「あぁ、迷いは無い。俺よりお前らこそいいのか?相手は国際規模の大組織だぞ?」

「所詮はクズの寄せ集めでしょ。満足に訓練もしていない奴等に僕等が負けるわけ無いよ」


舞姫の言葉に、もう一人の少年・・・拓人がニヤリと微笑みながら言う。

すると舞姫もふわりと微笑み、ぐっと手を握り締めた。




「さて・・・行くとするか」













舞姫達は暗い森を歩いていた。

住んでいた街を出てから既に8時間は経過している。
だが3人は止まることなく歩き続けた。



「なぁ、そろそろ休まないか?暗くなってきたし」



そんな中、龍弥が長い黒髪をかき上げながら提案した。

すると舞姫も足を止め、辺りを見渡した。



「そうだな・・・あまり動き回っても体力が消耗するだけだし。それに、ここには木の実が多い。野宿には最適だろう」

「舞姉、コレ食べれるかなぁ?」


足を止めた拓人が持ってきたのは、何かよく分からない生き物。


「せめてどんぐりとか木の実系持ってきて欲しかったな」


龍弥は、生きているのか死んでいるのかわからない生物に思わず嘔吐しそうになった。
自分の胸を擦り、深呼吸をする。



「・・・流石に俺は食えないな」

「お腹壊す?」

「うん。それはとりあえずやめとけ」




舞姫が拓人の手から生き物を受け取り、遥か彼方までぶん投げた。

「うきゃー」と悲鳴が聞こえたのは気のせいだろう。







その後、適当な果物や木の実を見つけ出して食べた。

少し落ち着いてから舞姫はすっと立ち上がる。



「さて・・・と。湖でも探してくるか」

「ん?何で?」

「流石に水浴びくらいしたいだろ?」

「あー・・・まぁ、ね」



舞姫は龍弥と拓人に待っているよう伝えた。



「見つけたら浴びてくるから、少し遅くなるかも知れない」

「りょーかい。何かあったら叫べよ」

「まぁ、危なくなったらな」

「いってらっしゃーい!」



舞姫はフードを深く被ると、森の奥へと入っていった。



――――――・・・



龍弥達と別れた後少し歩くと、舞姫は大きな湖を見つけた。


そっと近付いて水に手を触れてみる。
少し冷たいが入れない温度では無い。

舞姫は試しにブーツを脱ぎ、足を入れてみた。



「・・・気持ちいい」



キッチリ着込んでいた為、少し暑かったのだ。

ひんやりと冷たい水は少し火照っていた体をそっと冷やしてくれた。


数分だけ気持ち良さに目を瞑った後、服の帯をシュルッと外す。
そして上に着ていたワンピースも脱いで下着だけになる。

そのまま湖へ足を踏み入れ、座った。
すると胸辺りまで体が水に浸かる。



「はぁ・・・」



ひんやりとした心地良さにもう一度目を瞑る。

少し浸かった後に、水から上がり、着てきたフードで体を拭いた。



「・・・タオル持ってくればよかったかな」



持ち物はなるべく必要最低限のモノだけと心がけたのだが、やはり無いと不便なものは多い。

濡れた髪を手ぐしでいじりながら、舞姫は微笑んだ。



「随分と便利な生活を送っていたんだな」



今まで当たり前に使っていたものが、いざ無いとなってここまで困るとは思わなかった。

その時、舞姫は頬に少し風を感じ、空を見上げた。



月が綺麗だった。



「すごい・・・」



周りで光る星も十分輝かしいが、月はそれの何倍も美しく光を放っていた。まるで民衆に囲まれる王女のようだ。




「少し、冷えてきたな」



舞姫は月から視線を外し、素早く服を着た。


そして龍弥と拓人が待っているであろう場所へ歩き出した。

輝き続ける月の光を背中に浴びながら・・・。














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