戦え、この身が朽ちようとも。





血を浴びて真っ赤に染まったこの手が

落ちたとしても。




死体を踏んで重くなったこの足が

切り落とされたとしても。








目的を果たすまで、



俺は・・・・


刀の柄を握り続ける。







第弐章 戦闘








―――・・・・・・






湖で水浴びをした舞姫は、龍弥と拓人が待っているであろう場所へと帰った。



「・・・?!」



だがその場所に彼らは居なかった。
それどころか荒らされた形跡がある。

―俺が居ない間に何かあったのだろうか。

舞姫は不安になり、ダッと走り出した。

しかしその時、背後に鋭い殺気を感じた。
咄嗟に後ろを向くと、そこにいたのは仮面を被った黒ずくめの(体格からして)男。



「こんなトコに餓鬼が何の用だ?ここら辺は立ち入り禁止だ」



男は手に持った武器をチラつかせて言った。

脅しているつもりだろうか?



「へぇ・・・で、その立ち入り禁止の区域にいるっつーことは・・・アンタあそこの従業員か何か?」



舞姫はニヤリと笑みを浮かべ、森の奥にある古い屋敷のような建物を親指で指した。

今の所、1番最初のターゲットがあそこだ。


ここからあの建物はかなりの距離がある。
きっと近く見えるのはあの建物があまりに大きいからだろう。



「餓鬼には関係ない。さっさと帰って寝な」

「ふぅん・・・ビンゴ?」



まるで挑発するかのように一層笑みを深くする舞姫に、男は怒りを露わにした。



「餓鬼め・・・あまりナメてると痛い目見るぞ」



しかし舞姫は笑みを絶やさずに言った。



「痛い目・・・見させてみろよ、オッサン」



その言葉が引き金になったのか男は刃物を構え、舞姫に突っ込んでいく。

しかし彼女はそんな男の攻撃を易々とかわし、横へ回り込むと脇腹へ拳を叩き込んだ。



「ぐっ?!」

「遅いよ」



それからすらりとした足を振り上げると、男に鋭い回し蹴りを喰らわせた。

か弱そうな少女からは想像もできない攻撃力に、男は成す術も無く吹っ飛ばされる。



舞姫は男に近付くと、刀を鞘から抜き、男の首筋に当てた。



「この辺で長い黒髪と緑髪の人見てないか?」

「・・・あのガキ共なら、今頃俺の仲間に囲まれてるぜ」



それを聞いた舞姫は少しだけ目を見開くが、すぐに表情を戻して、さっさと歩き出そうとした。

しかしそれを男が見逃すはずが無い。
男は懐から銃を取り出すと、舞姫に向けた。
カチャリとセーフティを外す音が聞こえる。



「・・・・しつこい奴は嫌いだ」



次の瞬間、ドシャッと音を立てて男は倒れた。

倒れた男の胸元からはドクドクと鮮血が流れ出る。





「人殺しも、嫌い」




舞姫は寂しげにそう呟き、その場を去った。








――・・・・・




一方その頃、龍弥と拓人は・・・。



「キリが無い!」

「どんだけ居るんだよ・・・」



二人は大人相手に戦っていた。
傷すら負っていないものの、今まで倒してきた人数は相当なものだった。
そろそろ体力も限界に近い。

それに比べ、目の前に立つ黒尽くめの男達はまだ元気そうだ。


先程から倒しても同じ人数増えていくため、逃げることもままならなかった。



「俺、もう腕痛い・・・」

「僕も疲れてきたよ」



龍弥は手にした鞭をしならせる。
だが、その動きにはキレが無かった。

拓人も魔方陣を発動させるのが少し遅れてきている。


遅かれ早かれ、勝敗が着いてしまうだろう。




「今がチャンスだ!やれ、者共!」




一気に大人数が駆け込んでくる。
最後の足掻きとばかりに龍弥と拓人は身構えた。

しかしその時、辺りに突然桃色の花びらが舞い始めた。




「これは・・・?!」

「蓮の、花」



龍弥と拓人は辺りを見渡す。
すると月を背中に、大きく跳躍する影が見えた。


「可憐紅蓮!」


声が聞こえ、花びらが更に増加し、激しく舞い踊る。
やがてその数は周りが見えなくなるほどになった。



「散れ・・・桃色鋭華」



影・・・舞姫の言葉に花びらが反応し、今までゆらゆらと舞っていた花びらは鋭く変形した。

そして辺りに居る黒ずくめの男達を切り裂いていく。


舞姫は宙で一回転すると、スタッと猫のように龍弥達の前に降り立った。



「無事か・・・龍弥、拓人」

「舞!」

「舞姉!」




橙色の髪をなびかせ、舞姫は少しだけ口角を上げた。

それから前を見据える。



男達は殆どの者が息絶えていたが、何人かはまだ生きている。

だが大分弱っているため、素手でも倒せるだろう。



「まだ戦えるか?」


「あぁ、任せろ」

「舞姉が来たからね。ここは頑張らないと」



3人はもう一度武器を構えると、走り出した。










――――――・・・



「二人とも、怪我はしていないか?」



舞姫は近くの木によしかかっている龍弥と拓人へと歩み寄った。
二人は肩で息をしている。



「うん、大丈夫だよ」

「少し疲れたけどな・・・」

「じゃあ少し休もう。まだ道のりは長い」



龍弥はふぅ、とため息を零す。

そんな彼を見つつ、舞姫はぐいっと頬に着いた返り血を乱暴に拭った。

そして森の奥に聳え立つ大きな屋敷を見上げる。



「まずはあそこを潰すんだよな」

「あぁ」



大きすぎる屋敷に、龍弥は冷や汗を垂らす。



「・・・にしても、立ち入り禁止区域にあれだけの巡回者がいるんだ。こりゃ、気合入れなきゃな」

「屋敷にいるのは見た目からして50人・・・いや、下手をしたら100人はいるかもしれない」



拓人も屋敷を見据えながら言った。

それから舞姫はぐっと拳を握り締めた。



「何人居ようと関係ない。ここが組織の一部なら潰すだけだ」



彼女の目からは決意が見て取れた。
だが同時に、泣いているようにも見える。



「舞?・・・何かあった・・・」



龍弥がそう言い掛けた途端。



ドォオンッ!



突然屋敷の方から爆発音が聞こえた。
何事かと音の方へ目を向けると、先程まで眺めていた屋敷の一部が燃えていた。
何かが爆発したのか・・・それとも爆弾か何かが投げ込まれたのか。



「っ・・・行くぞ!」


「おう!」

「面倒だなぁ、もう!」




舞姫達は屋敷へ向かって走り出した。













back back

inserted by FC2 system