―三つ葉村

その村が三つ葉村と呼ばれるには理由がある。



一つ目の理由は、村の形がトランプのクローバー・・・いわゆる三つ葉に似ている事からそう呼ばれる様になった。





子供向けの絵本などに書き記される場合はそう言われることが多い。

しかし、これは表向き。




確かに村の形はクローバーなのだが、本来の理由は別にあった。



それはとても簡単で単純な理由。







・・・三つ葉が咲き乱れるから。

ただそれだけ。






第玖章「右目」





――――――――・・・




「うわ・・・ッ」



その光景をみた舞姫は思わず絶句した。
勿論、後ろにいる仲間達もだ。



「何コレ・・・気味悪い」



拓人は思わず目を鋭くさせて辺りを睨み付けた。

今舞姫達の目の前に広がっているのは、そこら一面の緑。
勿論花畑なんてレベルじゃない。
全てが三つ葉のクローバーなのだ。



「何が気持ち悪ィんだ? 確かに、ビビる光景ではあるけど・・・」



拓人の言葉に龍弥が言うが、言われた拓人は首を横に振った。
そして不思議そうに見つめてくる龍弥を見つめ返した。



「クローバーはシロツメクサって花の葉なんだけど、シロツメクサとは別にクローバーそのものにも花言葉があるんだ。・・・じゃあ、四葉のクローバーの花言葉、わかる?」

「そりゃあ、幸福とか・・・幸せの象徴だろ?」

「そうだね。だけど、クローバーそのもの・・・もしくは三つ葉の花言葉は知ってる?」

「・・・わかんねぇ」



質問を投げかけられた龍弥は数秒考え込むが、すぐにわからないと首を振る。
彼の反応を見て拓人が答えを口にしようとする前に舞姫がぼそりと何かを呟いた。



「?・・・悪ィ、舞。聞こえなかった。もう一回頼む」

「三つ葉の花言葉は・・・・・"復讐"だ」



その言葉に拓人と舞姫以外は目を見開く。



「まぁ確かに・・・それでは拓人が先程言った"気味が悪い"というのも頷けるな」



紅銀が辺りを見渡す。
その時、突然舞姫が自分を抱き締めるかのように体を擦り始めた。



「舞、どうした?」

「いや・・・物凄い、寒気が」


(お嬢、気をつけて。・・・なにか来るよ)



舞姫が脳内に響いた白露の声に反応しようとした時、突然笑い声が聞こえた。



「あっははははは!お客さんだ!お客さんだよ!」



それからすぐ、突然クローバーが空を舞い始めた。

風に煽られているわけではない。
何者かが鋭利なものでクローバーを次々と切り裂いているのだ。
切り裂かれた葉はひゅう、と小さく吹いた風に攫われては翻弄され舞い上がっていく。


突然の出来事に思わず武器を構える舞姫達。

笑い声の主は数秒後にピタリと動きを止め、ゆっくりと振り向いた。



「待ってたんだよ?・・・・ずっとずっと、待ってた」



その声の主(声からして少年だろうか)は握っていた剣をもう一度振り回した。
すると、同じようにクローバーが切り裂かれては風に攫われて行く。



「ずっとずっとずっとずっとずっとずっと待ってた。ほら、君が遅いから・・・もうこんなに咲いちゃったよ」

「・・・誰に、言ってるんだ?」



今まで声を発せずにいた舞姫はやっとのことでボソリと呟いた。
すると少年は今まで上げていた口角を下げる。



「忘れちゃったの?ボクの事・・・」



少年はそう言うと、クローバーを一本引き抜き、三枚の葉をバラバラに取る。
ぷつりと取った葉の一枚一枚を風に遊ばせているとひゅうと風が一層強く吹き荒れ、突然視界が暗くなった。





――――――――――・・・・








何も無い空間で舞姫は目を覚ました。

暗いような明るいような良くわからない場所。
だけど何だか、懐かしく感じた。



「やぁ」



突然後ろから聞こえてきた言葉に舞姫はばっと振り向く。
彼女の目に映ったのは先程の少年。
顔は前髪で隠れていて表情は見えない。



「へぇ・・・これでも、思い出せない?」

「・・・何の事だ」

「それとも、思い出したくないのかな?」

「お前は何を言っている?」



一人で話を進めていく少年を睨みつけながら、舞姫は言った。

すると少年は口角を上げた。
だがそれは純粋な笑いでは無く、何かを蔑むような、嘲笑うかのような歪んだ笑みだった。



「・・・・ッ?!」

「じゃあ・・・」



ビクリと舞姫が肩を揺らす。
それと同時に少年が手に持った剣を振り上げた。



一体、何処を刺せば・・・思い出せるかな?




―――――――・・・・




ガキィンッ!



刃物と刃物がぶつかり合う音に、舞姫はハッと意識を取り戻した。



「お嬢!しっかり・・・してよ!」



白露は少年を弾き飛ばしながら言う。
その声に現実へと引き戻される。

そして辺りを見渡すと、仲間達は皆、何処から生えているのかわからない長い草のような物に絡まれて身動きが取れなくなっている。



「何、が・・・皆・・・ッ」

「お嬢が動けなくなってる間にね・・・下から出て来られちゃ、常人じゃあ太刀打ちできないよ。それに、刺されそうになってるのにお譲ったら意識戻る様子が無いから・・・出てきちゃったよ」



舞姫はその言葉に目を見開き、次に少年を見る。
少年は先程と同じような歪んだ笑みを浮かべながら、剣を構える。



「邪魔しないでよ。ボクは・・・そっちの裏切り者に用があるんだから



今まで上がっていた口角が、更に上がった。
ニタリと三日月のように裂けた口に舞姫は寒気を覚えた。



「裏切り者・・・?!」



仲間達は目を見開いた。
勿論裏切り者だと言われた舞姫もだ。
寧ろ1番驚いているのは彼女だろう。

生まれてから殆ど人との関わりが無かった彼女にとって、裏切り者呼ばわりされるのは衝撃だったようだ。



「ちょっと待てよ!舞が裏切り者?冗談も対外にしろよ、この野郎!」

「そうだよ・・・舞姉が人を裏切るなんて、あり得ない!」

「勝手な言いがかりはよして貰おうか・・・人違いでは無いのか?」



龍弥がじたばたと暴れだし、拓人も手をぐっと握り締め、紅銀は少年を鋭く睨み付けた。



「煩い人達だね。部外者は黙っててよ」



少年の笑みが消えた。
次の瞬間、更に多くの草が生え始め、やがてそれは絡み合って巨大なボールへと変形した。



「邪魔なゲストは・・・退場だ」



その言葉と同時に龍弥と拓人、紅銀へ絡み付いている草が巨大なボールへと吸収される。
勿論草に絡みつかれている三人もだ。



「なッ!」

「っく・・・!」



その時、舞姫が思わず駆け出そうとするが、それを白露が後ろから抱き締めて止める。



「嫌、離してよ・・・ッ!」

「お譲、ダメだ!危険すぎる!」

「だって・・・皆が危ないのに!」



数秒後には3人の姿は見えなくなった。
完全にボールに吸収されてしまったようだ。



「嘘・・・」



舞姫は唇をかみ締めた。
その様子を見た少年はくつくつと笑い出す。



「裏切り者が人を想えるようになるなんてね。こりゃあ面白い現象だ」

「なぁ、アンタ・・・さっきから煩いよ。お譲がいつどこで誰を裏切ったて言うのさ?」

「くくく・・・そう、君も取り付かれたんだね。あぁ、でも君はその裏切り者から出てきたんだっけ。じゃあ当たり前か。あははは!」



さも可笑しそうに笑い続ける少年を見て、白露も思わず身震いした。



「狂ってる・・・」

「そうさ。ボクは狂ってる。・・・だけどそこの娘よりはまだ正常だよ」




少年が舞姫を指差して言った。



「君達は何も知らないようだけど。折角だから教えてあげるよ。この裏切られた本人が直々に・・・ね」



ニタリと笑みを浮かべて少年は語りだした。








むかしむかし

あるところに ちいさなおとこのこがいました

おとこのこには おともだちがいませんでした



あるひ おとこのこは

しょうじょから よつばのクローバーをもらいました


よつばのクローバーをくれたしょうじょは オレンジいろのかみをなびかせて にこりとわらいました



「それをあげるから、わたしと おともだちになってくれない?」



おとこのこは しょうじょと おともだちになりました 


おとこのこは はじめておともだちができて うれしくなりました



めでたし めでたし





「だけどこれには続きがあってね?少女と友達になった男の子は、毎日のように少女と遊んでたんだ。ある日、彼女と約束をしたんだけど少女は約束の場所に来なくてね。結局、遊べないまま家に帰ったんだ。そしたら・・・・どうなってたと思う?朝は元気だった父さんと母さんが、死んでたんだよ。真っ赤になって、血の海に沈んでてね。死んでる母さんと父さんのすぐ近くには・・・・少女がいたんだ」

「で、その少女が、お譲だって言うの?」

「ご名答」



白露は怯えるように震える舞姫の肩を優しく抱きながら言った。
その声にはどこか怒りが含まれているようにも感じる。



「髪の色が一緒ってだけで決め付けるのは、感心しないな」

「残念だけど・・・他にも同じ点はあるんだよね」



少年はその場でくるりと回ってみせる。
次の瞬間、少年は目にも留まらぬスピードで舞姫と白露へ接近する。
そして白露を弾き飛ばし、舞姫へと近付いた。



「白露ッ・・・!」

「な・・・俺に、触れる・・・のか?!」



何とか空中で体勢を立て直し、地面に叩き付けられるのは免れたが、舞姫から離れてしまった。
結果として彼女は少年に追い詰められて、身動きがとれずにいた。



「君の右目、見せてよ」

「?!」


少年は舞姫の顎を掴み、クイッと上へ向かせる。
次の瞬間辺りからは草が突然伸び始め、彼女の腕や足に絡みつく。
そしてそのまま地面へ倒した。



「ぐ、ぁ・・・ッ」

「少女はね。右目の色が、定まってなかったんだ」



舞姫の眼帯を外しながら少年は話し続ける。

叩きつけられた背中が痛い。
腕や足に絡みついている草はギリギリと体を締め付ける。



「ある時は紫で、またある時は赤や青、緑。水色の時もあったかな」



やがて眼帯が完全に外され、彼女の両目が少年の視界に晒される。

少年はニヤリと笑った。



「今は灰色か。彼がいるからかな?・・・この色は初めて見たけど、間違いないね」

「・・・!」



身動きが取れない彼女へ向けて少年が剣を振り上げる。
振り上げられた剣が狙うのは、彼女の胸元。






「裏切り者には・・・・ここで死んでもらおうか」






ドス・・・ッ




剣が、振り下ろされた。







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