俺の目の前に現れた謎の怪物。

ソイツは隅っこでビビる俺になんて目もくれず、豪快に暴れ始める。
・・・って何でこんな冷静に状況解説してんの俺?



「・・・さっさと帰ろうとっとと帰ろう、てか帰りたい誰か助けて」

『マスターしっかりして下さい』



弾丸トークをする俺をセドナは呆れた目で見つめた。
何でお前そんな冷静なの。

その時。


ドクンッ・・・



「ッ?!」



突然心臓が激しく脈打ち始めた。

全身を雷のような鋭い痛みが走り、俺は胸元の服をきつく握る。
息が荒くなり、思わず膝から崩れ落ちる。



『マスター?!』



セドナが俺に駆け寄る。


ドクン、ドクンッ


心臓は止まることなく脈を打つ。



「っく、ぁ・・・!」



手を握り締め、痛みに堪えようともがく。



『ますた・・・・・・あッ?!』



その時俺を心配そうに見ていたセドナが、突然元の猫だったときのサイズ(というか猫に)戻ってしまった。

何とか痛みが治まってきて、俺はセドナへ目を向ける。
セドナは小さくなってぷにぷにした肉球を見つめてから、真ん丸い目で俺を見た。



『マスター・・・いいですか?』

「何、をだ?」



真剣な表情でこちらを見るセドナに思わず俺は驚く。

一体どうしたというんだろうか。



『説明は・・・成功してからします』

「だから何を、・・・?!」



セドナはゆっくりと目を閉じた。
それから俺に近付き、少しだけ跳躍すると俺の心臓のあたりにこつんと頭をぶつけた。

すると驚くことにセドナの小さくてふわふわした身体は俺の体に吸い込まれていった。



「な・・・ッ?!」



自分の中に"何か"が入って来る不思議な感覚に襲われ、俺は再び胸元を握る。
一瞬だけ真っ白い光に視界を遮られ、俺は思わず目を瞑る。

少し落ち着いてきた頃、ゆっくりと目を開いた俺の脳裏にセドナの声が響いた。



『マスター、聞こえますか?』

「うっそ、セドナ?・・・何処にいんの?!」

『あなたの中ですけど』

「何かその表現やだな」



とりあえずどうなっているのか状況を聞こうとする。
その時、俺は頭と臀部(他にいい表現方法が見つからなかった)に違和感を感じた。

手を頭の上まで移動させるとなんだか柔らかくてふさふさしたものに触れた。
近くにあった建物のガラスで自分の姿を確認する。

数秒後俺は絶句し、絶叫した。



「いやぁあぁああぁああッ!何か生えてる!何か出てるぅううぅゥウウゥ!!」

『マスター落ち着いてください・・・』

「これをどうやって落ち着けと?!何か生えてるんですけど!猫耳みたいの生えてるんですけど!嘘だ!嘘だと言ってくれマイマスタぁあぁああぁあ!!」

『アイムノットイズマスター』

「お前マジ誰」



何だかキャラが崩れてきたセドナに突っ込みを入れた後、俺は再び自分の姿を確認する。
驚くことに、猫耳だけでなく尻尾まで生えている。



「NA・NI・KO・RE☆」

『大丈夫ですか?』

「これが大丈夫に見えるかねセドナ君!ただでさえ君が俺のナカに入って来ただけで困惑してるのにナニコレ俺似合ってねぇ!キモい!てか全体的に人選間違ってる、間違ってるよコレぇえぇェエ!」



大声で騒ぎ立てる俺の声をかき消すかのように、突然ズゥンと大きな音が聞こえた。



「うおっほう!忘れてたZE☆」

『遂に狂ったか』

「違いますぅー!ちょっとビビっただけですぅー!」



俺はふざけながら先程まですっかり忘れ去っていた怪物を見上げた。

改めて見るとサイズがハンパ無い。
高層ビルをぶっ壊すくらいなんだから当たり前か・・・。

その時、化け物は赤い目をぎょろりと目を動かし、こちらに目を向けた。



「ッ!!」



やばいと思ったときにはもう遅く、化け物は既に動き出していた。
背中に生えた羽を豪快に動かして飛び始める。

俺の上空まで来ると、口をガバリと開けて光線のようなものを放った。



『マスター、跳んで!』

「うっそ無理ィ!」



脳内に響いたセドナの声で我に返り、俺は死ぬ覚悟でジャンプする。
すると自分でも驚く程の跳躍力で何とか怪物の技を避けた。

しかし驚きのあまり着地に失敗した。



「膝打ったけど、出来たよ!俺できたよ!」

『次来ます!』

「っちょ・・・俺のターンなっしん?!」



その後も怪物はバリエーション豊かな技を連発してきた。

何とか全て避けきったが、掠ったものも幾つかある。
お陰で制服が一部焦げてしまった。



「テメーこんにゃろ、制服高ぇんだぞ!ったく、頭来た!」

『反撃するんですか?』

「何か念じれば技出る気がしない?」

『しませんけど』

「おまっ、俺のやる気が奪われるゥ!」



怪物は攻撃こそやんだものの、ずっとこちらを見ている。
正直なところ怖いが、テンションを上げて行かなければ勝機は無いと思った。



「破壊光線かなんか出ないかなー・・・しゅわっち!」

『何ですかソレ』

「ウルト○マンの真似」



はふぅとセドナの豪快な溜息が聞こえた。



「溜息吐くな。俺が惨めだろ」

『マスターいいですか?落ち着いて聞いて下さい』

「はーい」

『あなたの腰にあるのは何ですか?』

「ほぇ?」



セドナに言われて、俺は自分の腰の辺りを触る。
そこには拳銃やライフルなどの銃系と小刀が3本ほど収納されたベルトが装着されていた。



「いつのまにこんなモンついてんの?何これ変身ベルト?」

『とりあえずはそれで戦って下さい』

「ちょっとちょっとちょっとォ!強引じゃね?!だって俺刃物握ったこと無いし拳銃とか握ったことすらないよ!モデルガンしか持ったこと無いよ?!」

『包丁握ったことくらいあるでしょう?』

「いや包丁と小刀かなり違うよね?違うよね?!」

『用途は一緒じゃないですか。"切り裂く"って用途で』

「怖ぇよ」



俺はとりあえず遠距離でも攻撃可能なライフルを手に取った。



「・・・・怖いよぉおぉお」

『マスター頑張って!』

「お前ガチで鬼だよな」



ライフルに目を向けると、スナイパーが覗くような・・・こう、的(?)みたいなモノが無い。
とりあえず銃口を怪物に向けて構える。

それにしても、トリガーを引くのが怖い。
相手が人間じゃないだけまだマシだ。



「・・・っく、」

『大丈夫。大丈夫です』



後ろから誰かに包み込まれるような感覚に囚われ、俺は思わず身を固くした。
人差し指を曲げることの出来ない俺の手の上に俺のよりも少し大きな手が置かれる。



『マスター』

「セドナ・・・」



次の瞬間、俺は人差し指を曲げた。

パァン!

俺は反動で思わず尻餅をつく。
乾いた音が響き、放たれた銃弾は



怪物の脳天を


・・・・・・貫いた。






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