俺が放った銃弾は真っ直ぐと進み、怪物の脳天に直撃した。



「うっそォ?!」



脳天に銃弾が直撃した怪物は大きく後ろに仰け反り、光の粉らしきものになって消えていった。

緑色の血の雨を覚悟してた俺は思わず目を見張る。
まるで夏に現れる蛍の大群のように発光しながら消えていった怪物・・・。

その場消えていったことへの驚きもあったが、それよりも一撃で倒せたことに俺は安堵の溜息をこぼす。



「つっかれたぁ・・・」



座り込んだまま立ち上がることも出来ずに、俺は怪物がいた場所・・・高層ビルの上を見つめた。
その時、突然ビリッと手足に鋭い痛みが走る。



「っつぅ・・・!」



先程まで必死で気付かなかったが、良く考えれば自分の身体にかなり無理をさせてしまった。
手足の痺れが半端じゃない。

まぁ・・・車からダッシュで逃げ、あっちへこっちへピョンピョン跳ね回ったのだから当然といえば当然だが。



『マスター、大丈夫ですか?』

「うーん・・・精神的にピンチかな」

『それは大変ですっ、精神科行かなきゃ!』

「ツッコめよ」



俺の体から脱出しつつ、セドナは尋ねる。
疲れきった俺にこいつは知ってか知らずかボケにボケを返してきやがった。

ボケたつもりがツッコむ羽目になり、俺は再び溜息をこぼす。

その時、俺はふと空を見上げた。



「・・・・・・ぬん?」



上空から何かキラリと光るものが見えて、俺は首をかしげた。
次の瞬間、落ちてくる"それ"の正体を知り、思わず青くなった。




「ガ・・・・ラ、スぅううぅううぅゥウゥ?!」




人一人が映り込める位のサイズをした大きなガラスが、俺目掛けて落下してきた。
何とか紙一重でかわし、俺は落ちてきたガラスを見つめた。

ガラスはコンクリートの地面を割り、豪快に突き刺さっていた。



「何ここ・・・最後の最後まで死ぬ思いしなきゃなんないのかよ・・・」



危うく心臓が飛び出るかと思った。
というか多分、目は飛び出た



「てかコレ、どっから出て来たのよ」



俺は再び空を見上げるが、落ちてきたそれ以外に落ちてくる様子は無い。
一応ほっと胸を撫で下ろして、今度は目の前に突き刺さっているガラスに目を移した。

ガラスというか、どちらかというと俺の姿を映している鏡のようだ。
透き通ってはおらず向こう側は見えない。

その時俺はピコン!といった風な効果音が脳内に流れ、同時にある考えが浮かんだ。



「これに触れば帰れるんじゃね?」

『・・・・可能性は、ありますね』



セドナの方を向きながら問いかければ、彼はこくりと頷いた。
俺は目の前に突き刺さっているガラスに恐る恐る触れた。

すると俺の手はこっちに来た時と同様、ズブリと吸い込まれていった。



「セドナ!」

『はい?・・・ぐえっ』



足元にいたセドナの胴体を掴み、ガラスに向かって一歩踏み出す。
全身が包み込まれた途端に不思議な浮遊感に襲われ、次に気付いたときには――ある店のショーウィンドウの前にいた。

ふと辺りを見渡す。
うん、ここは俺の住んでいた町だ。

俺は安堵のあまりはふぅ、と息を零す。
すると掴んでいたセドナがじたばたと暴れだした。



『マスター痛いですっ、離して下さい!っつーか離せ!千切れる!

「あ、悪ィ」



気付かない内に俺はセドナの尻尾を掴んでいた。
そのせいで彼は宙ぶらりんになっている。

咄嗟にパッと手を離すと、セドナは落下しそのまま顔面から言った。
勿論、地面はコンクリートだ。



『ひどい・・・』

「猫なら着地くらいキレーにしろよ」

『うっせーですよ!急に離すから対応できなかっただけだっつーのです!』

「最早敬語じゃねぇ」



俺はセドナの性格に疑問を覚えた。

"うっせーですよ"なんて敬語初めて聞いたぞ。



『ん・・・・あれ?』



その時突然セドナが辺りをキョロキョロと見渡し始めた。



「どーしたぁ?魚でも飛んでたか?」

嘘マジ?魚って空飛ぶんですか?!・・・・・って違う!』

「じゃあ何だよ」



言葉遣いに関してはもうツッコまないことにした。

セドナはもう一度辺りを見渡して、それから俺を見上げた。



『やっぱり・・・』

「だからとっとと説明しろよ」

『さっき走っていった車・・・あっちの世界に行く前はあそこに止まっていました』



セドナが指(っつーか手?)差した方に目を向ける。

彼の指した所には横断歩道があり、車はそこの少し手前で止まっていたらしい。
俺は全く覚えてないけど。



「え、じゃあ何?俺ってば、怪物瞬殺しちゃったの?ヤッベ、かっくいー!」

違ぇよ・・・・じゃない、違いますよ』

「もう敬語やめたら?」



わざとだろ。絶対わざとだろ。
隅に行って"の"の字を書きたくなったが、生憎ここは大通り。
隅っこなんてあるわけがない。

地味に沈んだ俺をシカトし、セドナは説明し始めた。



『あちらとこちらの世界では、時間の経過がズレているみたいですね』

「んじゃあ、あっちで一時間経ってても、こっちでは一分でしたぁ〜みたいな?」

『そんな感じです』



言っとくが俺はバカじゃない。
あ、いや・・・バカだけど。
でもそっちのバカじゃなくて・・・あぁ、えぇと・・・。

・・・まぁいわゆるバカなんだけどな。



『それに、僕たちの意思では異世界に行けないようです』

「えぇー・・・何それドッキリ?」



急に来られたら困るんだけど。
学校ン時とかどうしよう。

ふと悩みが次々浮かぶ。

よく考えれば風呂場にも鏡あるじゃん。
入ってる最中に吸い込まれたら困るな・・・。



『まぁ今は悩んでても仕方ありませんよね』

「話振ったのお前だったよな」



悩み始めた俺をぶっ飛ばすかのように、にこやかに話を打ち切るセドナ。

結構バッツリいったなオイ。
俺はたまらずツッコミを入れるが、彼はそれもシカトして歩き出した。



『マスター、早く帰りましょう!お腹空きましたー』

「はいはい」



セドナを抱き上げ、俺は帰路についた。




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